●深津 武馬(産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 首席研究員
(兼)生物共生進化機構研究グループ長)
「昆虫と内部共生細菌との生物間相互作用を介した共進化適応過程の解明」

 

深津武馬氏は主に昆虫類に共生する微生物を対象に、進化生物学、生態学、生理学、細胞生物学、分子生物学など多面的なアプローチを駆使し、生物間共生の生物学的意義とその進化学的重要性について、世界を先導する多数の研究成果をあげてきた。

 

深津氏は共生によって生物の新規形質が進化することを、共生細菌によるアブラムシの植物適応の発見(Tsuchida et al. 2004. Science 303: 1989)、アブラムシの体色を変化させる新規共生細菌の発見(Tsuchida et al. 2010. Science 330: 1102-1104)、ホソヘリカメムシにおける共生細菌による農薬耐性獲得の発見(Kikuchi et al. 2012. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A109: 8618-8622)、衛生害虫トコジラミへの共生細菌ボルバキアによる栄養供給機能の発見(Hosokawa et al. 2010. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 107: 769-774)などの研究から明らかにした。また、共生細菌がホストのゲノムにも影響を与えることを、アズキゾウムシでの共生細菌から宿主昆虫への遺伝子水平転移の先駆的発見(Kondo et al. 2002. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 99: 14280-14285)によって示し、その後、多くの昆虫類で宿主と共生細菌間で遺伝子水平転移がおこり、それが進化的に重要であることを示した(Nikoh et al. 2008 Genome Res. 18: 272-280; Husnik et al. 2013. Cell 153: 1567-1578など)。

 

深津氏は、東京大学大学院、筑波大学連携大学院などで客員教授として人材育成に努めるとともに、和文著書・総説、監訳書、高等学校教科書などの執筆により進化学の普及と教育にも尽力してきた。そして、国内外の専門学会の評議員、学会誌の編集委員、日本学術会議連携会員として進化学分野の進展にも大きく貢献した。日本進化学会においては、編集幹事、評議員などとして学会活動に積極的に参加した。

 

以上のように深津氏は、進化学分野から発信して生物学全般に通じるような顕著な業績を上げている。