●西田 治文(中央大学)
「鉱化化石を用いた化石植物の発生、生理、共生研究」  

 

進化過程には、現生種のみの比較研究では解決できない問題が数多くある。たとえば、植物進化において葉や根といった器官が複数回の起源を持つことは、化石の研究によって明らかにされてきた。しかし、化石種の形態や組織構造は現生種の多様性の範囲から外れる場合もあり、特に現生種どうしでは大きなギャップがあるような進化過程において、中間段階の化石を発見して最大限の情報を引き出すには、並外れた研究センスと広範な知識が必要で、実現できる研究者はごくわずかに限られる。西田治文氏はそのうちの一人に数えられ、陸上植物進化について、外部形態のみならず、発生、生理、共生現象について中間段階化石に基づいて解明する新分野を開拓し、なかでも被子植物への進化について数々の驚くべき発見をした業績で国際的に知られている。 植物化石の保存様式にはいくつかの種類があるが、西田氏は、有機物がケイ酸塩等の鉱物に置換されて細胞形態まで立体的に保存されうる鉱化化石 (permineralized fossil) の可能性に注目して、研究を展開してきた。その代表的業績の一つは、従来は花粉化石から存在が確認されていただけであった初期被子植物について、果実の鉱化化石を白亜紀中期の地層から発見し、その解剖学的構造を明らかにしたものである (Nishida 1985 Nature 318: 58)。この化石種プロトモニミア Protomonimia は、発表当時、世界で初めて白亜紀から報告された被子植物果実の鉱化化石であった。白亜紀に突如として大繁栄を始めたように見えていたことから、ダーウィンにも「忌まわしい問題」として取り上げられた被子植物の初期形態進化の謎への突破口となった重要な研究成果である。第二の代表的業績は、被子植物に最も近縁な化石種の一つであるグロッソプテリスGlossopteris(後期ペルム紀)が遊泳する精子で受精していたことの発見である (Nishida et al. 2003 Nature 422: 396; Nishida et al. 2004 J Plant Res 117: 323)。西田博士は、グロッソプテリスの鉱化化石切片の精密観察を通じて、生殖器官の構造は雌雄ともに被子植物のものと類似している一方で、約12µmの大きさで約55本の鞭毛を持つ精子が裸子植物に見られるように花粉室内で遊泳している状態の化石を発見した。本業績は、発生および生理の観点において、グロッソプテリスが、花粉管と精細胞で受精を行う被子植物への進化の途上にあることを示す重要な研究成果であり、被子植物の進化的起源の解明につながる大きな一歩と評価される。また、西田氏は、後期白亜紀の裸子植物の果実の鉱化化石を研究し、その内部に甲虫の幼虫が生息していたことを見出し、昆虫と植物の共生関係が古くは裸子植物で始まっていたことを明らかにした (Nishida & Hayashi 1996 J Plant Res 109: 327)。これは過去の生態系における共生関係の理解に直接的に資する希有かつ重要な貢献である。さらに、西田氏は国内外の研究者と共同研究を行い、鉱化化石以外の保存様式の植物化石についても、多数の原著論文を発表してきた。古植物学だけでなく生物進化研究全般に影響力のある日本語教科書も2冊出版している。 以上の西田氏による進化学分野における顕著な業績は、日本進化学会学会賞の授賞に十分値するものと判断した。